
中高生の心に響いた「ことば」とエピソードをつづる「私の折々のことばコンテスト2024」(朝日新聞社主催、朝日中高生新聞共催、Z会、栄光ゼミナール特別協賛)で、中学部門の朝日新聞社賞に福岡市立香椎第3中学校3年の田代衣月さん(15)が選ばれた。取り上げたのは、ウクライナで出会った同級生の言葉。3年前に始まったロシアによる侵攻で会えなくなった親友だ。
田代さんは、小学6年生だった2021年夏、父の転勤でウクライナの首都キーウに移り住んだ。現地のインターナショナルスクールに転入し、直面したのが言葉の壁だった。英語の飛び交う教室で会話の輪に入れず、授業にもついていけない。昼休みには、一人でご飯を食べた。
助けてくれたのがドイツ出身の同級生、マリアさんだ。先生の説明で難しい言葉が出てくると、隣の席から簡単な英語や翻訳アプリを使って説明してくれた。
日本のアニメの話題で意気投合した2人は、ピアノを一緒に弾き、互いの故郷の言葉を教え合う親友になった。
別れは突然だった。同年秋、新型コロナウイルスの影響で授業がオンライン形式に。田代さん家族は「状況が落ち着くまで」と福岡に一時帰国。翌22年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、ウクライナに戻れなくなった。
ニュースでウクライナの状況が日々悪くなっていくのを見てふさぎ込むなか、キーウに残るマリアさんから届く言葉は冬休みの宿題や日本での暮らしについて、「Are you okay?(大丈夫?)」と田代さんを気遣う内容ばかり。
「一番大変なはずのマリアがつらさを見せず頑張っている。心配ばかりしていられない」。田代さんは沈んだ気持ちから立ち直り、自分に出来ることをすることにした。
始めたのは、身近な人にウクライナのことを伝えることだ。中学校の友人に、自分の知るウクライナのことを教えたり、当時の経験を作文に書いたりするようになった。
将来の夢もできた。外交官になり、世界の平和に貢献することだ。いつかマリアさんと再会したら、「あなたの言葉に救われたよ」と伝えたい。
◇
「私の折々のことばコンテスト」は10回目の今回、国内外から2万7616作の応募があった。福岡県内からは田代さんのほか、バスケットボールの試合中にかけられた「まだ終わっていない」という言葉の重みをつづった、筑後市立筑後北中の遠藤ひよりさん(1年)が中学部門の佳作に選ばれた。